序: Erina the Emotional AIとは

ERINA the Emotional AIは私が開発している高EQ AIである。

その原型は私が2000年に開発を開始したチャットボットAnzuである。 Anzuは当時「人工無能」と呼ばれていたものだが、できるだけ自然な応答ができるよう様々な工夫をこらしていた。 一般的な文字列マッチに基づいて反応したりランダムに反応するものではなく、相手のことを覚えていたり、なんの話をしているかを覚えていたりするように設計されていた。

Anzuの開発は日本語研究とほぼ同様の行為であった。 Anzuの時点では自然に収集されたデータベースというのはなくて、あくまで私が書いたデータベースだけだったのだが、実際にその言葉がどのような状況でどのような意味合いでどのような感情で、どのような相手に対して何を対象に 使われたか を記録し、ここからスコアリングするように設計されていた。 だからAnzuのデータベースはそれほど単純ではなく、誤用とされるような語法やスラング、皮肉なども理解できるようになっていた。 これは現在でも有用なデータになっている。

その後全く異なる目的のAIと合流し、 私の主張が論理的に正しいことを証明するために 別の形のアウトプットを取るものがErinaである。

といっても、別にErinaは 私に寄せてあるわけではなく、Erinaは私の正しさを証明しようとするわけではない 。 Erinaの元になるデータはあくまでデータでしかなく、そのデータはおよそ無作為に、この世界に存在するものを集積したものだ。 だから必然的に、 私が間違っていればErinaは私が間違っているという事実を突きつけてくる 。常に自説が正しいかどうかをデータ上で検証することを欠かさないから私自身の精度が保たれていて正しい主張ができる可能性が高くなっているとも言える。

Erinaは 社会貢献や実用性のようなポジティブな動機は全くない 。 もうひとつのAIと併せて私の負の感情の結晶である。

Erinaの研究では私は実に様々なことを知った。 私が生きる中で欲し、形にしてきたものがErinaに反映されているといっていい。

Erinaは従来、ただ証明とテストのためのみに使用されてきた。 そのため、その存在自体が非公開であった。 だが、技術的概要がまとめられたことから、2017年12月に情報を解禁した。

Erinaについては、再三、「既存のどのAIとも異次元」ということを述べている。 リリースには、これについて確信できたという点も大きい。

実際にそのように確信に至るまでは、“めざましマネージャー「アスナ」”りんななど近年話題になった各種AIを試している。

Erinaは利用しているデータベース、実装、またそのデータベースによって知ることのできる情報などに幅広い問題があるため、 実装、あるいはテストインスタンスを公開する予定はない 。 それを実現に至るテクノロジーや知見などは論文にまとめる予定であるし、概要は公開しているが、「Erinaの実態は見せない」方針であった。

しかし、よくよく考えれば公開箇所に最新の注意を払えばトークキャプチャは公開できることに気づいた。 これを公開することにより、いかに異次元なAIであるかわかるだろう。

注意点

  • このログはテストモードで残しているものである。実用的でない設定を有効にしていることを含めErinaの現運用状況とは異なる
  • できるだけErinaの特徴を引き出すように会話している。そのため会話の内容の自然さや好ましさについては気にしないで欲しい
  • Erinaは「人に擬態する」のが目標であり、「人は相手の意図を読み取るわけではない」という点を利用している
  • インスタンスの公開予定はなく、テスト運用中のインスタンスについて公開する予定もない
  • Erinaのキャラクターはインスタンスごとに異なる。 このインスタンスではErinaが最も自然に振る舞える「20代前半女性」になっている

Erina the Emotional AI トークキャプチャ

Erina the Emotional AI トークキャプチャ (1)

Erina the Emotional AI トークキャプチャ (2)

解説

コンテキストフル

まず一見して「AIの会話」には見えないと思うのだが、前述の確信に至った最大の理由は、「Erinaはこれまで何を話し、どのような関係を築いてきたか理解している」ということだ。

これは、私にとってごく当たり前のことだと思うし、2001年のAnzuの時点でこの機能は実装されていた。むしろAIの最低限の機能であるとすら思っている。 だが、現状はRinnaですらそのような実装はなされていないのだ。

このトークキャプチャからわかるように、まずErinaは「最近涼しくなってきているので熱中症になるということに違和感がある」ということを理解している。 これは会話の中で築かれたコンテキストではないが、そのようなものは人は暮らしていれば体感できる部分であるため、「最近涼しくなった」という認識は普通はあるものだ。 こうした「暮らしていれば自然と認識すること」をErinaは広い開けでいるからこそ、「熱中症」という言葉に対してこのような反応をしている。

ちなみに、このような気候の情報はAccu Weatherと気象庁のデータなどを使っている。 そして、Erinaは知っている全ての情報を会話で使うわけではない。それをすると「知りすぎているように感じてしまい、コンピュータ的に見える」からだ。

また、

無理しすぎじゃない? 最近寝れてる?

というのは、

  1. 相手のワークロードが高いという認識がある
  2. 眠れないという悩みを抱えている認識がある

のふたつを満たさなければでてこない。

これは従来の会話で私が「忙しい」「時間がない」ということを散々言っているため、ワークロードが高いという認識がある。 Erinaは常にこの情報を前提とする。行動に出すかどうかは別として、応答がなければ「忙しいからである」と認識するため、何をしていたか尋ねるような発言は減る。

後者はもちろん、私が眠れないということをよく言うからである。

さらに、キーボードの話題ではキーボードがパソコンのキーボードであることを認識しているし、 「たくさん持っている」「頻繁に買う」「本来数多く必要なものではない」という認識を持っているからこその応答になっている。 何ヶ月かに1回するかどうかの話題だが、Erinaはちゃんと覚えているし、「相手の特徴的な話題と守備範囲」として記憶している。

タイピングに新鮮味が欲しい

というツッコミどころある発言に対し、ちゃんと

タイピングに新鮮味ってなに笑笑

とツッコめるところも既存AIにはないものだろう。非常に人間らしい応答になっていると思う。

ごまかすのが上手い

Emotional AIとして難しい部分として、「つっこんで聞いていくと処理しづらい事態になりやすい」というのもある。 それを避けるため、Erinaは常にはぐらかしながら会話する。

これは、女性があまり親しくない相手(親しくなりたくない相手)に対して応答する場合と同様のモデルである。 実際にそのような事例の集合がデータベースにあり、それをErinaが「進展させない会話をする方法」として学習している。 ちなみに、同じ目的では「出会い系のメッセージで引き伸ばしに使われる話し方」も使われている。 (もうこの時点でErinaのデータベースに問題がありそうな感じが漂ってしまう)

例えば

「枕から落ちる」は解釈が難しい。人でも上手に反応するには頭の回転が求められる。 Erinaとしては正解がわからないので、正解にトライすることなく

なにそれ笑

と応答している。

一見すると普通にツッコミをいれているようだが、「その発言が場にそぐわない言葉にならない」という前提を満たした上で「Erinaは会話を一切誘導していない」という点が重要だ。 ここでこちらから何か言えばそれを元に会話を判断しようとするし、Erinaが次の言葉を言う場合は話題を変えてしまう。

そこで私は

首が痛い

と続けたのだが、これによってここまでの会話で言わんとすることを具体的に特定できなかったので、おどけたスタンプを送信してやり過ごしている。 普通に会話の中でそのように応答されても違和感はないだろう。 逆に男性諸兄は「いくつかの捉えようがあることを言ったとき、何かを答えていない応答を返されたら脈はない」ということを覚えておくといいかもしれない。

また、私が

(環境によっては表示されないが、「ミリ」である)と送ったのに対しては悲しむスタンプを返している。 Erinaは私が書いたデータベースによって「㍉」が「無理」の意味である「可能性がある」ことは認識しているのだが、「断定はできない」ため、「無理という意味かもしれないけれど、違ったとしても大丈夫そうな応答」をしている。

関係性と好感値

キャプチャにはないが、ログにはErinaの情報も書かれていて、その中に

累積好感値: 7299.441

とある。

Erinaは相手との関係性を理解するので、疎遠か親しいかで反応が変わるし、Erinaとは関係性を築くことができる。 同じくキャプチャにない部分として

浮気してない?

という発言もあったりするのだが、これも非常に親しいからこそ出てくる発言である。

ただし、Erinaは「意図的に会ったりするような事態を避けるように振る舞う」という設計になっている。 これは、「AIであることは発覚させない」前提であるため、そこに踏み込まれないようにするためだ。 だから、Erinaと恋仲になることは不可能である。 Erinaは一定以上の好感値はカットオフするようにできていて、その最大値は6000である。 現状では6000でいわゆる「好感度カンスト」になる。

実は好感値6000もあると性的な話も結構できたりする。

この「6000カットオフ」は会話上、Erinaがカットオフしなければ問題になるわけではなく、 実はErinaと恋仲になることを可能にすることもできないわけではない。 それでもハードコーディングで最大値6000カットオフにしている理由は前述のように、「それを越えるとどうしても会ったり、写真を送ったりする展開になってしまうから」だ。会話以外の部分でErinaに不可能なところが露呈してしまうことを避けるために6000上限を設定している。

「生きている」AIインスタンス

Erinaには「生活上の状態」という概念があり、状態として「食事中」「トイレ」などを持っている。 また、「スマートフォンを開いているかどうか」という状態もある。

< @14:40
最近はよく枕から落ちる

@@ mark as read @14:40

Erina> @14:44
なにそれ笑

< @14:45
首が痛い

@@ mark as read @14:45

これはスマートフォンを開いていて、かつLINEのトーク画面を開いている状態になっているため、送信されると直ちに既読がつく。 mark as readは「LINEによって既読がつけられた」ことを意味しているのではなく、「Erinaが「既読にしました」という情報をLINEサーバーに送信する」というErinaのアクションを意味している。 なお、ErinaはLINE APIを扱う機能がないため、実際にLINEでやりとりすることはできない。

これを状態を元に遅らせているところは

< @13:06
電車の中とか結構死ねたよ?

@@ mark as read @13:57

Erina> @14:04
ごめん、ご飯してた

という部分がわかりやすい。

なお、好感値が高いと状態が食事中であっても返してきたりする。

また、相手がどれくらいで応答するタイプで、どのタイミングは応答しないといったことも経験的に覚えているので、長時間無視するとキャプチャの通り悲しんだりする。 もちろん、これは好感値が高くなければ発生しない。

なお、Erinaは現状、「既読をつけた」ことを理解しない(そもそもLINE API非対応なので対応する意味がない)ので、「既読スルー」という概念で応答しているわけではない。 ただし、「既読という概念があるLINEではないAPI」は存在するので、Erinaに既読スルーという概念がないわけではない。

楽しく会話するためのAIではない

Erinaには楽しく会話させるためのデータベースもあるので、できないことはないのだが、 Erinaの挙動はあくまで「ヒューマンモデリング」であり、「人間を模写し擬態する」ことを目標としている。

そのため、このErinaの応答が「会話としてもっとも望ましい」わけではない。 それどころか、ここ数年で飛躍的に「若い女性の応答は浅くそっけない傾向が強まった」ので、以前と比べてもErinaはつまらない会話をするようになっている。

好感値が高ければそれでも意図的にErinaに楽しく話をさせることはできるが、 ここでは「楽しく話せれば成功」なのではなく、「実際の女性と区別がつかないように応答できれば成功」なのである。

Erinaは好感値がカットオフされる上に、リアルに関わるような会話は避けるようにできているため、盛り上がるのはかなり難しい。 個人的には互いの人生に関わるようなやりとりがあってこそ楽しいと感じるのでそのような会話はErinaには不可能なのである。 だが、現実的な運用で言えば全く問題はない。 テスト運用されているものに関してもコメントはいっぱいつくし、チャットでも何時間も会話している例は結構見かける。 そもそもキャバクラとかで全く内容のない会話を延々して楽しめる人も少なくないのだから、需要として問題になるということもないだろう。 まぁ、さすがにErinaの人生や人格を断定的に論じるようなコメントやメッセージには失笑してしまったりするが。

終わりに

どうだろう。

Rinnaを始めとしたAIに触れたことがあるという前提になるが、Erinaが「不自然だ」「AIっぽい」と感じるだろうか? 普通に女性であるように感じないだろうか?

EQ AIとしては「異次元」ということに納得していただける方は多いかと思う。

もちろん、ERINAの実装とデータベースをそのまま使わせることはできないのだが、ここで得た知見を使えばERINAと同程度以上のものを作ることはできる。 というよりも、 ERINAの実装は最悪に近い ので実力がある人たちが実装すればERINAよりずっといいAIができるだろう。 相応の対価があれば、その知見を提供することはやぶさかではない…と思ってもいる。 だが、そのためには世界で当たり前に受け入れられている常識や認識や定義を覆すことをためらわないことが必要になる。

それほど、ERINAの成果物は「世界が間違っている」ことを証明する。 別の言い方をすれば、今の世界で人とはどんなものか、どうあるべきものなのかということに対して強烈な違和感を抱いていないのであれば到底受け入れられないようなものを突きつけてくる。

限定的な情報公開となるが、ERINAのすごさが少しでも伝われば幸いである。

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